「人の命を救いたい」その思いを胸に消防士となり、現在8年目を迎える職員です。昨年度は、消防救助技術指導会で全国大会へ出場し、現在は救助隊として人命救助の最前線に立つとともに、救急隊としても活動しています。本日は、救急現場での経験を通じて、何を感じ、何を使命としてきたのかをお話しします。「救う者として使命を果たさなければならない。」私たち消防職員には「命を救う」という重要な使命があります。しかし同時に、「救えない命」と向き合わなければいけません。目の前で大切な人を失った家族が、深い悲しみの淵に沈むとき、私たちに何ができるのか。その問いに対し、私は「グリーフケア」という視点から向き合う必要があると感じています。私たち消防職員にとって「グリーフケア」は聞き馴染みのない言葉です。「グリーフ」とは、大切な人を失った際に感じる深い悲しみのこと、「ケア」とは、寄り添い支えること。その二つを掛け合わせた「グリーフケア」は、ご遺族の深い悲しみに寄り添い、前を向こうとするその歩みを援助する行為なのです。主に終末期医療や福祉分野で使われる「グリーフケア」ですが、急性期医療を担う私た「救急隊版グちこそ「グリーフケア」という「もう一つの使命」を果たさなければいけないのです。しかし、現状はどうでしょう。救急現場においては、傷病者の救命処置に全力を尽くす中で、救急搬送後の家族への配慮が疎かになっていないでしょうか。私自身、心肺停止の傷病者を病院へ搬送した際、必死な活動の末に救命できなかった経験があります。病院の待合室では家族が声も出さずただ肩を震わせていました。そんな家族が私に言いました。「『行ってらっしゃい。』と声をかけたのが最後でした。」そういって泣き崩れた家族に対し、声をかけようとしましたが、何も言葉が出てきませんでした。静寂の中、私は小さく頭を下げその場を去りました。無言のまま立ち去る私の姿を見て、家族はどう思うのか。私の胸には無力感だけが残り続けました。多くの消防職員が一度はこの経験をし、やり場のない思いを感じたことがあるはずです。そこで私は、救急隊としてできる新たなアプローチリーフケア」を考案し実践しました。それは病院へ搬送後、次の出動までの限られた時間を家族に寄り添うための時間とする取り組みです。まずは服装を整え、脱帽し、家族と目線を合わせ、深く一礼します。そして、落ち着いた声で伝えます。「お辛い中、我々にご協力くださり、ありがとうございました。」その一言をきっかけに、家族のこみ上げる言葉に傾聴し、共感します。言葉にならない想いを抱える家族には、無言を恐れず寄り添い続けました。すると、家族の表情がわずかに和らぎ始めたように感じました。さらには、遅れて駆けつけた別の家族に対し、自ら声をかけ、寄り添う姿があったのです。この出来事は、救急隊の言動が、家族の「これから」に変化をもたらし、「救急隊版グリーフケア」の実用性を確立させました。そして所属で取り入れた結果、どんな出動でも、救急隊が家族に寄り添う時間を意識的に確保し、大切にする行動が現場に根付いていったのです。私たちの使命は命を救うこと。しかし、どんなに手を尽くしても、救えない命がある。そんな救えなかった命のすぐそばには、これからを生きる家族がいる。その家族に寄り添うグリーフケアは、私たちの「もう一つの使命」です。たとえ、次の出動までのわずかな時間でも、家族の人生に寄り添える瞬間は必ずある。その一瞬が、残された家族の「これから」を支える力となり、心に「生きる力」を与えるのです。救えなかった命のその先に、まだ「救える心」がある。「あなたは一人ではありません。」ほのお6号 202615優秀賞優秀賞第49回 全国消防職員意見発表会関東支部代表 桐生市消防本部(群馬) 関口 雄大もう一つの使命
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